「なぁなぁ先週のキュア配信見たか?」 「あぁキュアノーブルの? 相変わらず強かったよな〜」 私達の横を同学年の男子達が他愛のない話をしながら通過する。 「でもさ……キュアウォーターも良くなかったか? あの青い新人の子」 会話の中にある一つの単語に反応し、盗み聞くわけではないがより神経を耳に集中させてしまう。 「あぁあの子? 新人なのに気合い入っててすごいよな〜何より可愛いし」 (か、可愛いか……うへへへ) つい笑みが溢れてしまう。何を隠そうとこの私が今二人が話しているキュアウォーターなのだから。 「高嶺《たかね》? 何気持ち悪い顔してるの? あとボッーと歩かないで車に轢かれるわよ」 私の大親友である波風《なみか》ちゃんが横断歩道の前で肩を掴み止めてくれる。信号は赤になっており先程の男の子達は既に横断歩道を渡り終えていた。 「あっ、ごめん! ちょっと考え事してて……あはは……」 「アンタ最近ボーッとしてること多いわよ。何かあったの?」 「え……いや……何もないけどぉ?」 波風ちゃんは相変わらず勘が鋭い。それに対して私は嘘をつくのが下手で彼女から疑いの眼差しを現在進行形で向けられる。 「はぁ……別にいいわよ隠しても。でも何かあったらアタシを頼りなさいよ」 「あはは……そうなったらごめんね」 なんだかんだ言ってかれこれ十年以上の付き合いだ。お互い信頼し合っている。 [おい高嶺大変だ! またイクテュスが出た! しかもここから近い!] 私達が仲良く通学路を歩いている最中。無粋にも突然脳内に私だけにしか聞こえない声、テレパシーが届く。 [今!? 通学路に居るんだけど……それも友達と一緒に! どうしよう!?] 私は口を閉ざしたままテレパシー上で応答する。 [そこなら近くに公園がある! トイレに行くふりをしてコピー人形と成り代わるんだ!] (う、うぅ……ごめんね波風ちゃん。これも街を守るためだから!) 「い、いててて……ごめん波風ちゃん! お腹痛くなっちゃって。トイレ行ってくるから先に行ってて!」 私は近くの公園へと駆け出し波風ちゃんを置いていく。 「え? 高嶺!! 学校間に合うのそれ!? ちょっと!!」 こちらを呼び止めようとする彼女を無視し心の中で謝罪しながら公園へと駆け込む。 「ここなら誰も見てない
「反応はここら辺……あっ!!」 私は上空から落下しながらモンスターを探していると田んぼの用水路の近くに人と同じくらいの大きさの化け物を見つける。 赤く硬い鎧を纏った両手に大きな鋏を持ったザリガニだ。ただ肥大化したのではない。針のような足を地面に突き刺し二足歩行のフリをしている。 「あ……あ……」 奴の近くで眼鏡をかけた青年が腰を抜かしていて、乗っていたと思われる自転車がザリガニの近くに落ちており真っ二つにされている。 「その人から離れろっ!!」 私は手から圧縮した水をレーザーとして発射する。しかし奴の甲羅は硬く鉄をも貫くレーザーが弾かれてしまう。 「うっ……!!」 一旦レーザーを止める。出力を高めれば貫けるかもしれない。だがもしまた弾き返されてしまったらあの人にレーザーが当たってしまう可能性がある。 (あの人腰を抜かしてるし……助けようにも両手が塞がってたら私がやられちゃうしどうしたら……) 奴と私が互いに睨み合う硬直状態に入る。レーザーがダメなら最悪ステッキで殴ったりも考えたがあの甲羅には通用しないだろう。 「シャインアロー!!」 しかし背後から叫び声と共に光の矢が飛んでくる。それは甲羅を貫通し奴の肩に突き刺さる。 《来たー!! キュアノーブルだ!!》 《美少女王子様は今日も格好いいなぁ……》 《最推しきたぁぁ!!》 彼女が姿を現すと私の方の視聴者がその人、キュアノーブルに釘付けになる。 黄金に輝く髪を後ろで結び、衣装には宝石らしきものがいくつかついている。まるで中世の貴族が本から飛び出してきたみたいだ。 「君はそこの人を安全な場所に!」 「はい!」 光の力で戦う私の先輩キュアヒーローであるキュアノーブル。人気は一番であり私が変身したての頃にも助けてもらっている。 相変わらずのリーダーシップと頼り甲斐のある背中であり、私は指示に従って一般人の青年を避難させるべく肩を貸す。 「動ける?」 「は、はい……すみません……!!」 背中はノーブルに任せて安全な場所まで彼を運ぶ。かなり距離を取った後すぐさまノーブルの元まで戻る。 手伝った方が良いかもと思ったが流石は彼女だ。私が苦戦した相手に汗一つかかずに押している。 「トドメ……」 ノーブルは光を纏わせ鋭さを与えたステッキを振り上げる。しか
「良い動きだった。最近君の活躍はめざましいね。これは君のファンも中々できたんじゃないかな?」 ノーブルがこちらに駆け寄って来て賞賛の言葉を投げかけてくれる。 「いやいやそんなノーブルさ……」 「待て待て。わたし達は同列の仲間だ。序列なんて作りたくない。だからわたしのことは呼び捨てでってこの前言ったろう?」 「はい……!! でもノーブルにはまだまだ及ばないよ。こっちや先のことまで気を配ってて……目先のことしか見えてなかった私とは大違いだよ!」 「うん……そうだね……あ、それより一つ頼み事してもいいかな?」 表情から余裕の色が消え、申し訳なさそうにしながら頭を掻く。 「もうあんまり時間なくて、助けた人とか任せても良い?」 「うんもちろん! 今日もありがとね!」 ノーブルは一言こちらにお礼を言い足早に去っていきすぐに見えなくなる。 「えーっと、そこのお兄さん大丈夫だった? 怪我はない?」 戦いでよく見えなかったが、もし彼が動けない程の怪我をしていたら大変だ。私はすぐに彼の元まで向かい容態を確認する。 「け、怪我はないです……ありがとうございます」 青年は恐怖という鎖から解放され何事もなくスッと立ち上がる。だが表情は暗く笑顔が失われたままだ。 「待って!! えっとその……何か困っていることとか……あるの?」 キュアヒーローの使命はイクテュスを倒し"人々の笑顔を守る"ことだ。それなら私は後者の使命を果たせていない。 「いや何もない……です……その、ありがとうございました」 彼は壊れた自転車を用水路から引っ張り上げ、もう直せるはずもないそれを見て肩を落とす。 「あのっ……」 「あぁいやもういいよ。見た感じ高こ……中学生? 君は学校あるでしょ? ここからはヒーローがどうこうする問題じゃないから気にしないで」 「……はい」 実際壊れた自転車を直す術なんて持ち合わせていない。彼の悩みはそれだけじゃないように思えたが、深くは立ち入らせてくれなさそうだ。 (ヒーローの問題じゃない……か) 私は結局彼の笑顔を見ることなくこの場から去り学校への道に戻るのだった。 ☆☆☆ 「誰にも見られてない?」 「うんもちろん」 一限目の途中。テレパシーでコピー人形の私を学校の人目のない物陰に呼び出す。 「じゃ、おやすみね」
「ふぅ。今日も学校疲れたー!」 私は荷物を部屋に放り投げ、ベッドにダイブする。橙色に包まれた部屋に、このふかふかのベッド。やはり安心する。 今日の疲れもあって私はうとうととしてしまい、眠りへと誘われる。 「おーい。昼に俺に家に来いってテレパシーで呼んだの忘れてるのか? 居るぞー」 横になった私の頭を、兎の妖精キュアリンがつんつんと突く。 「もう流石に寝ないって。疲れたからベッドに飛び込みたかっただけ」 「本当か? お前は単純な所があるからな。まぁそこが良い所でもあるけど」 彼はキュアリン。"彼"という通り可愛らしい見た目の反面性別は男性であり、キュアリンという名前も日本のセンスに合わせれば「大地」という名前のようになるらしい。 彼らはキュア星という遠く離れた惑星から来た宇宙人で、地球に来て調べてる際にその時期に偶然出現したイクテュスに対抗する策としてキュアヒーローの変身道具を使ったらしい。 とはいえキュアヒーローは一定範囲内に居る同族の希望を集めて力に変える装置。地球においてキュア星人にはガラクタ当然だった。 「単純って……でもそんな私にこれを渡したのはキュアリンでしょ?」 キュアヒーローが現れ配信が始まってから半年程経過した頃、一ヶ月前に私はこのブローチをキュアリンに渡されたのだ。 その日から私はキュアヒーローとなり、ノーブルに助けてもらいながらも頑張ってきた。肝心のもう一人のアナテマにはタイミングが悪く会えていないが。 「そうだな……それでテレパシーで言っていたキュアヒーローが探られてるって話は本当なのか?」 「うん。波風ちゃんの親戚の大学生が調べてるらしい。しかも色々設備とか先輩とかも巻き込んでやってるっぽい」
「こらこら波風ちゃんも居るんだしお行儀良くね」「ふ、ふぁい。ほへんはふぁい」 トーストを飲み込むように喉奥に押し込みつつ牛乳で流し込む。「ご飯ありがとねお義父さん!」「どういたしまして。今日は研究で帰るの遅くなりそうだからまたその……ごめんね」「ううん気にしないで。研究頑張ってね」 お義父さんは研究で大忙しであり特に最近は家族の時間がかなり減っている。だが仕事だから仕方ない。私はそう言い聞かせて甘えたい気持ちをグッと抑える。 残りのベーコンと目玉焼きを食べ洗面所に向かう。 「高嶺……また胸大きくなった?」 着替えていると波風ちゃんがひょこりと顔を出し、私が着替える様子を不審者のおっさんのように覗く。発言もセクハラめいていて一気に年老いたようだ。「もう。気にしてるんだからあんまりそういうこと言わないでよ」「気にしてる? 育ってるんなら良いじゃない。成長しないより……」 波風ちゃんは恨めしい視線をこちらに送ってくる。鋭いそれは私の胸に突き刺さり貫通する。「でも大きくなると動きにくいんだよね。体育の時も邪魔だし、ブラのサイズを変えるのも面倒だし」「……それ嫌味?」 波風ちゃんから放たれる視線が更に強く厳しいものになる。睨まれたまま着替えを進め準備もやがて終わる。「じゃあお義父さん行ってきまーす!」「失礼しましたおじさん」 私達は玄関に行き靴を履く。「うん行ってらっしゃい。波風ちゃんもまたいつでも来ていいからね」「はい! ありがとうございます」 波風ちゃんが外に出て私もその後に続こうとする。だがその前に置いてある一つの写真に向き直る。「行ってきます…….お父さん。お母さん」 私はもういない両親にもしっかり挨拶し波風ちゃんを追いかける。 「そういえば……震災からもうちょうど十年なんだね」
「えーっとそれで、健さんはキュアヒーローについてはどこまで調べて……?」 部屋から出てすぐに私は探りを入れる。キュアヒーローについて健さんがどこまで情報を握っているか、真相にどこまで迫っているか確かめるため踏み込む。 「色々だね。今現在活動しているのは三人。 まず一番歴が長いキュアノーブル。イクテュスが現れてすぐ登場して、自慢の光の能力で毎回華麗に敵を倒すね」 私がお世話になっているあのイケメン美少女の人だ。優雅に敵を倒し、キュアヒーローが地球に現れてから常に人気No. 1だ。 「でも一時期出てくる頻度が下がっていた期間がある。その時に現れたのがキュアアナテマだ。彼女は闇の力でノーブルとはまた違うやり方で戦う」 直接会ったことはないが配信上では何回か見たことはある。万物を引き寄せる闇の力と格闘術で隙なく戦う私なんかよりずっと強い憧れのヒーローだ。 「あれ? でももう一人居なかったっけ? 引退したのか見なくなったけど」 「あぁキュアフィリアだね。あまり目立った活躍もなくいつのまにか来なくなっていたが、情報を見た感じ戦うことに乗り気ではなかったようだし、恐らく引退したんだろう」 私もその人は名前くらいしか知らない。ノーブルさんに最初の頃聞いてみたが何故かはぐらかされてしまって分からずじまいになっている。 「そして最後に新人のキュアウォーター。最近現れた期待の新星だね。街を守ることに熱心で向上心も見られる。それに可愛いって評判だね」 「か、可愛いですか……えへへ……」 「どうしたの高嶺? また月曜の登校した時みたいな気持ち悪い顔して」 「えっ!? いや何でもないから……それより健さん続きを!」 相変わらず私は顔に出やすく、バレないよう動かないといけないのにもうボロを出しそうになってしまう。 「それで彼女達の能力だが……俺は二つ仮説を出している」 「二つ……聞かせてもらえますか?」 「まずは政府が作った新兵器説だね。核兵器があるとはいえあれは最終手段でありリスクも大きい。憲法もあるしね。 だからこそちょうど良い強さであるキュアヒーローを開発し、偶然現れたイクテュスでテストしているってところかな」 予想は大きく外れていたので私はホッと胸を撫で安堵する。 「それで二つ目は?」 「宇宙人が持ち込んだ技術……かな」 「
「ここが図書館だね」 「図書……え? この建物全部がですか!?」 着いたのは三階建ての中学の校舎ほどの広さをを持つ建物。これ全部が図書館であるようだ。 「そうだね。俺も初めて来た時はビックリしたよ。見せたい資料は三階にあるから行こうか」 健さんは階段の前にあるゲートにカードをかざして開けてくれる。学外の人は本来入れないらしいが、受付の人に頼み見学として特別に私達も入っていいことになる。 階段を昇り三階まで着くとそこはびっしり本を敷き詰められた本棚が大量に置いてある空間だった。 「二階にもかなり本があったけれど、ここも中々あるわね。これ全部勉学に関するものなの?」 「らしいね。流石の俺でも大学生活通して5%も読めないだろうね。それと見せたいのはこっちね」 健さんは扉を開け薄暗い部屋に入っていく。ひんやりと冷たい空気が足元を掬い、目の前の大きな棚が私達を待ち受ける。 「えっと確かあの新聞は……こっちか」 健さんが棚の一つから新聞を取り出しページをぺらぺらとめくる。 「ほらこれこれ。イクテュスについて載っているだろ?」 新聞にはヤドカリのような貝を背負ったイクテュスの写真が貼ってあり、見出しには「また現れた異形の怪物! その正体に迫る!」と書かれている。 「まぁゴシップレベルの信憑性の内容だけど、中々興味深いことも書かれていてね」 見出しの下の文章をじっくりと眺めてみる。 恐らく健さんの興味が惹かれたであろう箇所を見つける。イクテュスが地球の生物を改造されて生み出されたものではないかという旨のものだ。 (イクテュスは自然発生ではなくて人為的に誰かしらに生み出された……か。キュアリン達も調べてるけどまだあいつらの正体に分かってないらしいし、実際のところどうなんだろ) あいつらは死んだら灰になってしまうため地球の人やキュア星人は何も足取りを掴めていない。 「俺はその記事に賛成かな。少なくともイクテュスは自然発生ではないと思う。人為的に作られた存在だろう。流石に誰が作ったまでは分からないけど」 今まで考えたことなかったが、一体イクテュスはどこから来て襲撃はいつ終わるのだろうか? 私は波風ちゃんやノーブルや健さんとは違いあまり頭が良くない。目先のことしか見えておらず、イクテュスから人々を守ることしか考えていなかった
「食堂は……ここね」 学内を少し歩き、横長く鎮座する食堂まで辿り着く。昼時であるが土曜なので人はあまりいなさそうだ。 「あれあの人……」 私はちょうど今食堂に入ろうとした眼鏡をかけた青年に注目してしまう。どこかで見た記憶があり、頭の中を探ると彼が月曜に助けたあの青年だという情報が引っ張り上がってくる。 「ん? どうしたの高嶺? あの人見つめて……あっ、ほら。向こうの人も気づいたみたいだよ」 「あの……オレに何か用?」 私にガンを飛ばされ流石に気づき青年はこちらに話しかけてくる。しかし前に会った時私は変身していた。彼は私が誰かは分からず初対面の状態だ。 「あ〜えっとその……あっ! 配信!」 「配信……?」 「月曜にあったキュア配信に映ってたなーって」 「あぁあの襲われた時の……お恥ずかしい姿を」 変身しておらず配信も関係ないこの状況下で、歳下の私に対して丁寧に喋る。本当に律儀で礼儀正しい人なのだろう。 「いやいやそんな仕方ないですよあんな化け物相手じゃ……それよりこの大学の人だったんですね」 「いや……オレはここの大学の人じゃないよ」 「えっ……?」 「友人の健ってやつに会いに……」 「たけ兄に!?」 世界は狭いと言うが、なんと私が助けた彼は親友の波風ちゃんの親戚の友人だった。 「そうだけど……君は?」 「あっ、すみません。アタシはたけ兄の親戚の海原波風です」 「波風……そういえば健が親戚に女の子が居るって言っていたような……」 まさかの繋がりだ。あの時もう二度と会うことはないと思っていた人にこうして巡り会えた。 (あの時笑顔になれなかった理由……分かるかな……) 彼を助けた時のあの表情が今も忘れられていない。胸に残り続けモヤが脳に染み込み離れない。 「あのアタシ達今からお昼なんです。よければ一緒にどうですか? 高校の頃のたけ兄の話も聞きたいですし」 「あぁ別に大丈夫だよ。あいつなら面白い話無限にあるし」 そうして私達二人は新しい仲間を加え食堂の中に入り、食券機で券を購入しカウンターでチキンカツ定食を受け取り席に向かう。 「いただきます!」 早速私はチキンカツに齧り付く。サクッサクの衣に中からは肉汁が溢れ落ちる。肉は分厚くソースは甘い風味がありアツアツホカホカの白米がよく合う。 「相変わら
「えっ……死んだって、イクテュスに殺されたってことなの……?」 「そうなるのだ。あの時はノーブルとフィリアの二人体制で配信してたのだ」 その頃のことは朧気にしか覚えていないが、二人だけの時期もあったような気もする。それくらいフィリアの記憶は曖昧で頭の中に残っていない。 「フィリア……翠はあまり戦いに向いている性格じゃなかった。僕も途中で辞めるようそれとなく伝えたけど……優しい彼女はほんの少しでもノーブルの力になりたくて……負担をかけたくなくて……それに親友の神奈子に危害を及ばせたくないって断ったのだ」 まるでこの前までの私と波風ちゃんの関係のようだ。翠さんと健橋先輩の立ち位置は。 「二人はキュアヒーローが同種族の希望を力に変換して強くなるっていう仕組みは知っているのだ?」 「そういうのは私も波風ちゃんもキュアリンからしっかり聞いたよ。だから配信して希望を集めてるんだよね?」 「そうなのだ……でももしイクテュスを倒す頻度が落ちて人気がなければ、有限の希望を独占されたらどうなると思うのだ?」 希望の独占。言い方は悪いが恐らくノーブルの方が活躍しすぎていたのだろう。実際に当時の彼女の配信は今でも印象に残っているが、フィリアの方は全く記憶にない。 「希望が集められなくて弱体化するのよね? まさか……」 「そうなのだ。弱ってついには変身道具依存の配信機能も壊れて変身すら維持できなくなって、最後はイクテュスに……橙子も必死に助けようとしたのだ。でも間に合わなかったのだ。そして最悪なことに吹き飛ばされた翠は通りかかった神奈子の前で……」 リンカルは言葉を詰まらせそれ以上何か言おうとはするが喉元で停滞するだけで発さない。 「もういいリンカル。ここからは俺が説明する」 キュアリンがリンカルの背中を摩り下げさせる。 「代わって説明するが、神奈子がキュアヒーローの力を憎んでいるのはそれが原因なんだ。 それにあいつが使っているブローチは……翠が使っていたものだ」 健橋先輩と翠さんを私達と重ねてしまっていたので、想像するだけで胸の奥がキュッと締め付けられる。そして健橋先輩の怒り様に納得してしまう。 「あいつは全てを知り橙子や俺達を憎んで、橙子は自らの罪を受け入れて償おうと、それでもって許されようとはしない。その結果が互いにキュアヒーローを辞
「リンカル……そこを退け!! そいつにキュアヒーローとしての資格なんてない。アタイが倒してそのブローチを叩き壊してやる……!!」 「全く君は相変わらず荒々しいね。そんな性格で人助けは向いてないよ。君こそそのブローチをリンカルに返却してキュアヒーローを降りたまえ」 リンカルと呼ばれたハムスター? のような見た目のキュア星人が止めようとするものの二人とも聞く耳を持たない。 「お前ら何やってるんだ!! キュアヒーローの力を行使したイクテュス以外への攻撃行為は許されていないぞ!!」 そこにキュアリンも来て二人を説得する。理論を加えることにより二人もとりあえずは力を解き殺意を抑える。 「ねぇ……二人ともどうしたの!? 配信ではあんなヒーローしてたのに、何でキュアヒーロー同士で……私達はみんなの笑顔を守るヒーローじゃないの!?」 ノーブルはバツが悪そうに視線をこちらから逸らす。だが対照的にアナテマは私を睨みつけ先程ノーブルに放っていたものを私に向ける。 「ふざけるな……何が正義ヒーローだ……!! キュアヒーローはそんな希望の力じゃない……こんなの人を狂わす呪いの力だ!!」 アナテマは胸にあるブローチを強く握り締める。そして私の方に近づいてきて胸元に、ブローチの方に手を伸ばす。 「ちょっ……何するのやめてよ!!」 私は咄嗟に後ろに下がりブローチを守る。彼女は目に見えて不機嫌になるが後ろからノーブルが睨みつけ牽制する。 「お前らなんかがこの力を使えこなせるもんか。死にたくないならとっととこんなこと辞めて日常に戻るんだな」 アナテマは捨て台詞を吐き闇に溶けて消えていく。 「はぁ……アナテマ……いや神奈子は相変わらずだな」 「えっ……神奈子って、もしかしてあの健橋神奈子!?」 「いやいやそんなまさか。かなこって名前は一般的だし同音の別人よきっと」 「君達……健橋神奈子を知っているのか!?」 しかしノーブルの反応はまさかのもので、変身を解除しつつ、桐崎橙子の姿へと変わって私達の方に駆け寄る。 「えっ……橙子さん!?」 「ん……? そうだが君達は?」 「私達です! 今日下校する時に会った……」 私達も変身を解いて素性を晒す。これには橙子さんも飄々とした表情を崩す。 「いいのかリンカル? 私生活に無駄に関わらせて?」 「彼女達
「ぐっ……うぉぉぉ!!」 私に二体のイカ達が飛んできて、ただでさえ多い足は二倍となり計四本の手足では対応しきれない。 「きゃっ……!!」 猛攻についに耐えきれず私とイリオは防御を崩されて胴体がガラ空きになってしまう。 「シャインブレイド!!」 「ブラックホール!!」 私の前に光のオーラが割り込んできて奴らの足を数本切り飛ばす。 イリオの方のイカは引っ張られるように真横に飛んでいきその先に居た人にまとめてボディーブローを受ける。 「アナテマとノーブル!?」 私達のピンチに現れたのは他の二人のキュアヒーローであった。その強さは新人の私達とは比べ物にならず一瞬にして形勢が逆転する。 「二人ともありがとう! 本当にたすか……」 「こらこらウォーター。戦闘中は敵を見ないと」 「あっ……すみません」 コメントでも安堵する声がある一方前を見ろとちょっと辛辣めなコメントが目立つ。 (だめだめ私! ちゃんとみんなの役に立てるようにならないといけないのに……) 気持ちを切り替えて私はすぐにノーブルが足を切った内の一体に向かう。他の三人もそれぞれイクテュスを倒すべく詰め寄っていく。 「マジックアクアレイン!!」 私は己の身を守る役目も与えるべく自分の眼前に雲を出現させ奴に鋭い雨の矢を浴びせる。 だが良いところで奴は拘束を逃れてイリオの所まで向かう。 「ちっ……いかせるか!! イリオ気をつけて!!」 だが奴からはもう戦闘をする意思がなくなっていた。イリオの前に居た個体も共にくっつき今度はノーブルの方に飛んでいく。 「なっ……!?」 トドメを刺す直前だったが二体のタックルにより目の前の個体の位置がズレて光の剣が空を切る。そしてそのまま奴らは体から湯気を出して縮みながら合体し用水路の中に逃げていく。 「待てっ!!」 私達三人が追いかけようとするがアナテマの前の個体が飛び出してきて邪魔する。 「お前の相手はアタイだっ!!」 しかし闇の力で引っ張られアナテマにタコ殴りにされ、そして鋭い蹴りがトドメとなり奴は灰になって崩れ去る。 「途中から完全に逃げる気だったね……わたしとしたことが不甲斐ない。あの個体の性格……自分からわたし達の前に現れることはもうないだろう」 私達に送られるあの反応はキュアリンらが撃つGP
波風ちゃんが専用のリモコンを操作して映画を選択する。前々から一緒に見ようと決めていたアニメ映画だ。 まさに今の私達キュアヒーローのようなヒーローもので、本編とは違う世界線を描いたストーリーらしい。ジャンルはSFのあぽかりぷす? というジャンルらしく、怪人が人間に完全に成り代わってしまった世界が舞台となっている。 「やっぱりこの作品って怪人側のドラマもしっかりしてるよね……」 怪人が多数となった世界でも人間との共存を訴える三人の怪人がフォーカスされる。ヒーローとも話し合い人間と怪人の着地点を見つけようと悩む主要人物達。そこにあるドラマは深くつい私達は現実同様に彼らを見てしまう。 「もしかしたらイクテュスにもこういう考えを持ったのかいるのかな?」 「それはないんじゃない? あいつら悪さをするというより知能なく暴れてる感じだし」 「それもそうか……よかった」 もしそんなのが居たとしたらとてもやり辛いし、今まで倒してきたイクテュスに対しても殺人の側面が出てきてしまう。 映画は人間派の怪人は全員倒され、最後は生き残った主人公とヒロインが夢を引き継いで歩いていく形で終わった。 未来がありつつも明確な悲劇と終わりが垣間見える結末。面白かったが自然と彼らに自分自身を投影していた私達は複雑な気持ちになる。 「そういえば高嶺はみんなの笑顔を守りたいからキュアヒーローになったってことでいいの?」 「うんそうだね。やっぱり波風ちゃんならすぐ分かっちゃうよね」 この気持ちを切り替えたく、大勢のエキストラのスタッフロールが流れる中波風ちゃんから話題を振ってくる。 「他の二人……アナテマとノーブルってどんな人なんだろう? 高嶺は何か知らないの?」 「アナテマとはまだ会ってないし、ノーブルは自分のこと話したがらないし……キュアリンに聞いてもプライバシーの都合って言って教えてくれないし」 他のキュヒーローにもそれぞれの私生活がある。私がそこに触れることをキュアリンは許してくれない。 トラブルがあった場合は集合等させるかもと伝えられているがそれも起きない。テレパシーはキュアヒーロー間でも繋げられるがそれが使われたことはない。ノーブルもアナテマもそういうのには積極的ではない。 「じゃあ次はどの映画を……」 [お前ら大変だイクテュスが出た!!]
「映画を見ると言ってもお腹が空いたわね……晩御飯どうする?」 「それならビーフシチュー作ってあるよ。あとはルーを入れて混ぜるだけ」 「ビーフシチュー……高嶺の作るビーフシチューなら大賛成だわ」 私の作るそれは何度か波風ちゃんにも振る舞ったことがある。好評なので今回もそれをチョイスした。 お義父さんは家に居ないことが多い。なので料理することが必然的に増えて腕前もメキメキと上達していったのだ。 私は波風ちゃんを家に上げて、鍋を温め直しつつルーを入れてビーフシチューを完成させる。 「ビーフシチューできたよー」 「こっちも映画見れる準備できた!」 私がご飯を作っている間に波風ちゃんはコンセントを私の部屋のテレビに繋げてリモコンの動作確認をしてくれた。 どちらも特に問題なく事が進み、私は買っておいた惣菜を電子レンジで温めてから更に盛り付けそこに今作った卵焼きを乗っける。 「いただきます!」 私達は手を合わせ机に並べられた食事を食べ始める。 「うーんやっぱり高嶺の卵焼きは甘くて美味しいわ。毎日食べたいくらい」 「うふふありがとう。高校に行ったら毎日お弁当に入れてあげようか?」 「一緒の所に行けたらね。高嶺が頑張ってくれないと」 「うっ……それはそうだね……」 波風ちゃんは小さい頃から健さんが側に居て、勉強を教えてもらえる環境に居たためか大変勉学の出来が良い。それに比べて私は毎回赤点を回避することを念頭に頑張る程度の出来であり、とてもじゃないが波風ちゃんと同じ高校なんて行けそうにない。 「はぁ……勉強で分からないところがあるなら教えるから頑張りなさいよ。ずっと一緒に居るって約束を守りたいならね」 「約束って……波風ちゃん十年前の約束覚えてたの?」 「アンタもしっかり覚えてたのね……一生側に居てくれるって言ったからには簡単に諦めないでよね」 「うん……信介さんも頑張ってるみたいだし私も気合い入れてかないと……!!」 健さんから様子を聞いているが、彼も前向きに頑張っており成績を着実に上げているらしい。少なからずキュアウォーターは彼の希望になったのだ。私も頑張らないと示しがつかない。 「まぁ受験まで一年半以上あるし、ゆっくりやっていきましょ。それととりあえず今日はお泊まり会を楽しみましょうか」 「うん! ずっと気張ってば
「大丈夫か?」 てっきり胸倉を掴み上げられて殴られるかと思ったが、手は肩を掴み尻餅を突いてしまった私を立たせてくれた。 「えっ……あ、ありがとうございます」 「ちっ、そんな怖がるなよ。噂とかでそうなるのは分かるけど」 顔こそ怖いが健橋先輩は意外と柔らかい雰囲気で、だがこちらと会話をするわけでもなく一回舌打ちをすると隣を通り過ぎて去っていく。 「えーっと、大丈夫?」 「う、うん。別になんともない……でも怖かったぁ……」 拍子抜けに近い感情があるとはいえあの瞳に睨まれるのは流石に肝が冷えた。イクテュスと戦う時のような緊張感だった。 とりあえず怪我がなかったことに安堵し私達は気を取り直して学校から出て帰路につく。 「あのー君達そこの中学の子かな?」 しかし今度は身長の高い中性的な、男性だとしても女性だとしても魅力的に映るイケメンさんに話しかけられる。 「ナンパですか……? そういうのはお断りしてます」 波風ちゃんがスッと私の前に出てイケメンさんに対して威嚇する。しかしこの人はキョトンとした顔つきで戸惑っている。 「あ、あぁ……わたしが男に見えたって口か。よく間違われるんだよね。あと私は君達の一個上で女の子だからね……ほら」 彼女は鞄から学生証を出して私達に見せる。学生証は近くの優秀な子達が集まる学校のもので、そこに桐崎橙子という名と性別が女性であることが記されている。 「桐崎……橙子? あの神童って呼ばれてる?」 「波風ちゃん知ってるの?」 「噂だけどね。勉強も運動も完璧にこなしておまけに顔も良くて男子からも女子からもモテる神童がいるってね」 細かく聞いてみれば確かにちょっとだけどこかで耳にしたような気がする。 「あはは……まさか他校まで噂になってるとは……まぁわたしのことはいいよ。それより健橋神奈子がどこにいるか知っているかい? 彼女に会いたくてね」 「健橋先輩に……?」 正直あの不良の頂点に立つ健橋先輩と、学生のお手本のような橙子さん。接点などまるでなく二人が会おうとしていることにギャップを感じで首を傾げてしまう。 「健橋先輩ならもう帰りましたけど……あの人に何か用があるんですか?」 「あぁ……いやちょっとね。君達には関係のない話だよ」 明らかに何かを隠し誤魔化す。しかし健橋先輩と神童様に何があっ
「高嶺!!」 波風ちゃんが完璧なタイミングでバレーボールを私が跳んだ先へとトスする。 「はぁっ!!」 私の全体重を乗せたスマッシュが炸裂し疾風の如きボールは相手のコートに突き刺さる。これがトドメの一点となり、この試合は私達の勝ちとなった。 「てか本当に波風と高嶺って仲良いし息ぴったりだよねぇ」 体育の時間が終わり着替えの時間。私が汗拭きシートで体を拭き波風ちゃんに制汗スプレーをかけてもらっているとクラスメイトの朋花ちゃんが話しかけてくる。 「まぁかれこれ十年の付き合いだしね」 「へぇ……幼馴染ってやつ? そういうのいいね」 私は制服を羽織りボタンを止めていく。 「ん……? 少しキツい」 制服は中一の頃に購入した大きさのまま変えていない。最近段々と胸周りがキツくなってきておりボタンを止めるのに苦労してしまう。 「ん? どうしたの二人とも?」 ボタンをやっと止め終わった頃二人から鋭い視線が胸元に飛ばされていることに気づく。 「ねぇ波風。高嶺って天然っていうか抜けているが故グサリとくること言ったりしない?」 「すごく分かるわ……」 そうこうしながらも着替えは終わり、私達は給食の準備をする。 今日の給食はカレーと餃子。体育で疲れた体にガツンとスタミナをつけられる私好みのものだ。私はご飯を大盛りにしてもらい班ごとに机を囲み食べ始める。 「どうしたの朋花ちゃん? あんまり手が進んでないけど、カレー嫌いだったっけ?」 「いや好きだけどそうじゃなくて……ねぇみんな、昨日わたしの弟見なかった? 小学三年生の青い服着たちんちくりんの」 「波風ちゃんは見た?」 「うーん昨日は用事で外に出てたけど青い服を着た男の子は見なかったわね」 私も同感で、餃子にタレをかけて口に放り込みながら記憶を探るが特徴が一致する男の子は浮かび上がってこない。 朋花ちゃんの弟なら一回会ったことはあるが、昨日はすれ違いすらしてないはずだ。 「家出……するような子じゃないし、どうしたんだろう……」 「ねえそれってもしかして誘拐なんじゃないの?」 「お母さんも昨日の深夜に捜索願いを出してた……見つかると良いんだけど」 朋花ちゃんは家族と、特に弟と仲が良かった。ひとしきり暗い顔をして落ち込む。 励ましてあげたいがありきたりな言葉しかかけられ
「……で、健にお前達の正体がバレたというわけか」 キュアリンの溜息が私の部屋を覆い尽くす。あの後私達は三人で大学から立ち去り私の家に戻っていた。テレパシーでキュアリンも呼んで事情を説明してこの状況だ。 「ごめんなさい……」 「いやもう過ぎたことだ。それより……」 「へぇ……君がキュア星人というわけか。こんな小型なのに人間と同等以上の知能を持ち合わせている……脳の密度が違うのかい? いやー興味が唆られるねぇ」 健さんは初対面のキュアリンに対して一切の配慮なく好奇心をぶつける。 「面倒な奴にバレたな……それで健。分かってると思うがキュアヒーローのことは一切口外するなよ。もしバレて騒ぎになれば活動が制限されて、間接的にお前は人命救助を妨害して人を殺したことになるんだからな」 健さんならそんなことしないとは思うが、キュアリンは口を酸っぱくして彼に忠告する。 「分かっているさ。化学や工学は人を助けるために存在してるんだ……その理念を自ら否定ふるつもりはない」 「まぁ……高嶺から話は聞いているが、ある意味信用できる奴かもな……」 波風ちゃんにバレた件も彼女がキュアヒーローになることで手は打たれ、健さんの件は正体を隠すことに協力するということでなんとか話はついた。 「そういえばたけ兄。キュアヒーローの活動を記録するとか言ってたけどあれってどういうこと?」 話がとりあえず落ち着きトラブルが解消されたところで波風ちゃんが話を次に進める。大学で健さんが言ったアレについてだ。 「ちょうどキュアリンにも相談しようと思ってたんだけど、ぜひキュアヒーローの活動を記録してイクテュスの調査などをさせてくれないかい?」 「いやそこまでは……といっても何しでかすか分からんしなお前……分かった。ただし条件がいくつかある」 キュアリンは渋りながらも仕方なく健さんの申し出を条件付きで許可する。 「まず口外は無論のこと、研究成果等はこちらの許可があるまで絶対に俺達以外に見せるな。それとこちらがイクテュスに関して何か依頼するかもしれないからその際は一切断らずに全ての情報を渡すこと。これが絶対条件だ」 「無論構わないさ。俺は未知の事物を解明できればそれでいい」 損得や他人の言う事で動かず自分の理念だけを崇拝する。ある意味で健さんは分かりやすく信頼がおける人物だ
「はぁ……はぁ……うっ!!」 奴を倒したことで気が抜けてしまい痛みがぶり返してきて、膝を突き激しく息を荒くして心の鼓動が速くなるのを皮膚で感じる。マラソンを走り終えた後のようだ。 [配信は……切れてる?] [戦闘が終わったから切っておいた。それより大丈夫……じゃなさそうだな。すぐに例のアレを持ってく] テレパシーが切れ、疲労がどっと押し寄せてくる。私は目眩に耐え切れなくなり、その場に倒れ伏しそうになってしまう。 「ウォーター!?」 地面に頭をぶつける直前にイリオの手が私を持ち上げてくれてなんとか衝撃は免れる。 「随分と酷い怪我だな。おい波風……いやここはイリオと言っておこう。手当てしたいから人目がないところまで移すぞ」 「宇宙人さん……分かった」 「宇宙人さんじゃない。俺の名前はキュアリンだ。覚えておけ」 私はイリオに連れられて人目のない物陰まで行きそこでお互い変身を解除する。 「っ……!! やっぱり酷い怪我。破片がめり込んでる……」 「間に合ってよかったな……ほら高嶺。例の薬だ飲んでおけ」 「うんありがと……」 私は口元に持ってこられた錠剤を飲み込む。血は止まらないが痛みが引いていき痛覚が失われていく。 「それは?」 「痛み止めだ。俺達の星のな。地球人に副作用がないことは確認済みだから安心しろ」 次にキュアリンは吹きかけるタイプのスプレーを取り出しそれを私の傷口に吹きかけていく。 「ちょっとそんな日焼け止めスプレーみたいなのかけて大丈夫なの!?」 「うるさいないちいち! 怪我の治りを促進させるスプレーだよ。ただまぁあくまでも促進させるだけだからこの怪我だと歩けるほど治るのに数十分いるが、一日もすれば痛みは残ってないだろう」 前使った時は数時間で完治したが、今回の怪我ではそうはいかないだろう。私は痛み止めが切れた後のことを想像して口の中いっぱいに広がる苦い味を噛み締める。 「とりあえず治療は終わったぞ。俺は見られたらまずいからこれで離れる。何かあればテレパシーで……」 「テレパシー……?」 [こういうのだ] 「うわっ!? 頭の中に声が!?」 私と全く同じ反応だ。やはりあの感覚は初見だと奇妙で驚いてしまう。 [こうやってやるの?] [あぁそうだ。ともかく高嶺のことは任せたぞ] キュアリンは茂